ClinGen 最新バージョン 2.0.0 (2021.3.30)
日本版対応バージョン 1.2.0 (2020.4.22)
日本版作成協力者:川崎秀徳 古庄 知己 

Ehlers-Danlos症候群IV型 (vEDS) サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
血管・臓器の破裂・穿孔 / 侵襲的処置の回避 3 3C 2A 2 B 10ACB

状態:Ehlers-Danlos症候群IV型 (vEDS) 遺伝子:COL3A1
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
有病率 大部分の症例が未診断であるため、どの集団においてもEhlers-Danlos症候群(EDS)IV型の有病率の正確な推定は得られていない。米国で遺伝学的検査、生化学検査、家系解析から確定診断されている症例数をもとに計算すると、最低でも約1:200,000の有病率と推定できる。
EDS IV型はすべての病型のEDS症例の約5~10%を占めると考えられる。
1.2.3.4
臨床像(症候/症状) EDS IV型は、薄くて血管が透見される皮膚、易出血性、特徴的顔貌(一部の症例で)、動脈や腸管や子宮の脆弱性を特徴とする。EDS IV型であると確定された成人例の大部分は、血管の解離・破裂、胃腸管の穿孔、または、臓器破裂で発症する。動脈破裂に先行して動脈瘤、動静脈瘻、動脈解離が生じている場合もあれば、自然に発症するもある。 血管合併症は、すべての解剖学的領域で起こる可能性があるが、大動脈および中型から大型の血管における自然破裂が最も多く報告されている。また、S状結腸の再発性穿孔のリスクも高い。 1.2.3.4
5.6.7
18歳以前に診断されたEDS IV型患者のうち60%は家族歴から診断に至る。新生児では内反足、股関節脱臼、四肢欠損などの症状がみられる。家族歴がない状態でEDS IV型の遺伝学的検査を受けた小児の約半数は、平均11歳で重大な合併症を呈する。4つの副徴候(遠位関節の過可動性、易出血性、薄い皮膚、内反足)が主要徴候の認められない小児においては診断契機となることが多い。 1.9
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) EDS IV型の50歳までの総死亡率は、血管や内臓の自然破裂のために、90%と高い。 血管の脆弱性は20代から30代で顕在化しやすい。
妊娠中は子宮や血管の破裂のリスクが上昇する。EDS IV型の女性の妊娠においては、分娩前後の動脈や子宮の破裂による死亡リスクが12%にも昇る。
1.2.3.7
EDS IV型の寿命の中央値は51歳(男性 49歳、女性 53歳)であるが、死亡年齢の範囲は非常に広い(およそ10歳~80歳)。主要な死因は動脈解離または破裂とそれに伴う臓器不全である。エクソン・スキップを来たすスプライス変異で発症年齢が若く、ハプロ不全の例では発症年齢が高い傾向にある。
腸管破裂は小児ではまれである。小児期後半から増え始め、最終的に25~30%の患者で腸管破裂を認めるが、死因になることは少ない。
自然気胸は12%の患者でみられる。小児期後半に起こりやすく、再発しやすい傾向にあり、外科的介入を要する場合もある。
9
2. 予防的介入の効果
患者の管理 以下の患者管理推奨の有効性に関する情報はなかった。 現時点で初期診断時に何をどこまで評価するかということに関するコンセンサスは得られていない。血管評価へのアプローチは患者の年齢と診断時の状況に依存する。(Tier 4) 1
生命の危機的状況を除いては、侵襲的な手技(治療的、診断的にかかわらず)は避けるべきである。(Tier 1) 2
患者は突然の原因不明の痛みが生じた場合にはただちに医療機関を受診するよう指示される。(Tier 4) 1
最近の報告では、EDS IV型妊婦は妊娠分娩あたり5.3%の確率で妊娠関連死亡が生じていた(従来の報告では、分娩前後の血管または子宮破裂による死亡率が12%とされていた)。生命に関わる合併症は、分娩あたり14.5%(動脈解離・破裂9.2%、子宮破裂2.6%)であった。出産経験のあるvEDS女性と出産経験のないvEDS女性とで生存曲線に有意な差はなかった。母体が診断を受けた場合、母体に対するリスクを十分に話し合い、高リスク妊娠として管理されるべきである。帝王切開の選択は妊娠合併症の一部を減らすことができるかもしれない。 1, 8, 9
MedicAlertブレスレットなどを着用すべきである。(Tier 4) 1
現時点でエビデンスのある推奨される患者管理法は確立されていない。 9
サーベイランス リスクが最も高い動脈血管系がどこかを特定するスクリーニング手段の有効性を評価するデータは存在しない。 1
超音波検査、MRA、CT血管造影による定期的な動脈スクリーニングを行ってもよい。高血圧の早期発見早期治療のために定期的な血圧監視が推奨される。 1
家族の疾患管理 EDS IV型患者の血縁者に対しては、遺伝学的検査(発端者の遺伝学的検査結果が不明の場合には臨床的評価)を行うことが推奨される。 2
回避すべき事項 EDS IV型患者は、競争や衝突を伴う運動、重量物の持ち上げに参加すべきでない。(Tier 2) 1, 2, 6
処置が絶対に救命につながると考えられない限り、手術その他の処置は可能な範囲で避けるべきである。(Tier 1) 2
大腸がんの強い家族歴がない限り、EDS IV型患者に対して診断的大腸内視鏡検査は行うべきではない。(Tier 1) 1,2
血管損傷のリスクがあるため、動脈造影は推奨されない。外科的介入の前に生命を脅かす出血源を特定するためにのみ行われる。(Tier 3) 1
利益が大きくないと予想される場合を除き、待機手術も推奨されない。 1
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 COL3A1変異の頻度は、1:50,000から1:200,000の範囲であると推定されている。(Tier 4) 1
COL3A1遺伝子のシークエンス解析における変異検出率は98%以上と非常に高い。 9
浸透率 ミスセンス変異やエクソンスキッピング変異の場合、浸透率はほぼ100%である。浸透率が100%になる年齢は様々であろう。(Tier 4) 1
相対リスク 不明。
表現度 疾患の表現度には大きなばらつきがある。臨床診断は4つの大基準のうちどれか2つに基づいて行われるが、13の小基準のうち2つ以上を満たせば診断を支持するものの十分ではないとされている。(Tier 4) 1
EDS IV型の一部(3-4%)はハプロ不全変異を有している。これらの集団では、合併症の発症が15年遅く、平均余命が同様に改善し、産科や長官の合併症が少ないことが知られている。(Tier 4) 1
4. 介入の方法
介入の方法 ライフスタイルの選択(妊娠やスポーツ参加)、医療提供やスクリーニングが管理によって大きく変化する。
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 臨床的に見逃される可能性 EDS IV型の家族の多くは重症の合併症や死亡後にのみ同定されるため、COL3A1変異をもっていても表現型がマイルドな場合には医師の診察を受けていないことが多く、見逃されている可能性がある。(Tier 4) 1
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 COL3A1遺伝学的検査は保険収載されており、かずさDNA研究所で実施可能。

参考文献
1. MG Pepin, ML Murray, PH Byers. Vascular Ehlers-Danlos Syndrome. 1999 Sep 02 [Updated 2019 Feb 21]. In: RA Pagon, MP Adam, HH Ardinger, et al., editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2019. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1494
2. Burcharth J, Rosenberg J. Gastrointestinal surgery and related complications in patients with Ehlers-Danlos syndrome: a systematic review. Dig Surg. (2012) 29(4):349-57.
3. Ehlers-Danlos syndrome, vascular type. Orphanet encyclopedia, http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?lng=en&Expert=286
4. Bergqvist D, Bjorck M, Wanhainen A. Treatment of vascular Ehlers-Danlos syndrome: a systematic review. Ann Surg. (2013) 258(2):257-61.
5. Online Medelian Inheritance in Man, OMIMR. Johns Hopkins University, Baltimore, MD. EHLERS-DANLOS SYNDROME, TYPE IV, AUTOSOMAL DOMINANT. MIM: 130050: 2016 Jul 09. World Wide Web URL: http://omim.org.
6. Maron BJ, Ackerman MJ, Nishimura RA, Pyeritz RE, Towbin JA, Udelson JE. Task Force 4: HCM and other cardiomyopathies, mitral valve prolapse, myocarditis, and Marfan syndrome. J Am Coll Cardiol. (2005) 45(8):1340-5.
7. Hiratzka LF, Bakris GL, Beckman JA, Bersin RM, Carr VF, Casey DE Jr, Eagle KA, Hermann LK, Isselbacher EM, Kazerooni EA, Kouchoukos NT, Lytle BW, Milewicz DM, Reich DL, Sen S, Shinn JA, Svensson LG, Williams DM. 2010 ACCF/AHA/AATS/ACR/ASA/SCA/SCAI/SIR/STS/SVM Guidelines for the diagnosis and management of patients with thoracic aortic disease. A Report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines, American Association for Thoracic Surgery, American College of Radiology,American Stroke Association, Society of Cardiovascular Anesthesiologists, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, Society of Interventional Radiology, Society of Thoracic Surgeons,and Society for Vascular Medicine. J Am Coll Cardiol. (2010) 55(14):e27-e129.
8. Murray ML, Pepin M, Peterson S, Byers PH. Pregnancy-related deaths and complications in women with vascular Ehlers-Danlos syndrome. Genet Med. (2014) 16:874?80.
9. Byers PH, Belmont J, Black J, De Backer J, Frank M, Jeunemaitre X, Johnson D, Pepin M, Robert L, Sanders L, Wheeldon N. Diagnosis, natural history, and management in vascular Ehlers-Danlos syndrome. Am J Med Genet C Semin Med Genet. (2017) 175(1):40-47.